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マカレンコと集団主義

マカレンコと集団主義

ソ連の教育実践家マカレンコは、20世紀の前半に、社会主義国家の建設という新たな課題を担うことができる人間像を、描こうとした。マカレンコは、非行少年の再教育に携わってきた経験を生かして、子供たちに、自分勝手なエゴに基づく行為を許さない教育を実践した。ただ、それは教師から子供への一方的な従属を強制する管理主義の教育ではなく、子供集団のなかでの規律の維持を通してなされる教育であった。教師もまた、その集団の一員として参加し、学校全体がひとつの集団として活動し、ひとりひとりの子供には、集団への貢献がしつけられるのである。こうした、個人の利益よりも全体の利益のほうを上位に置き、個人の幸福も全体の利益が確保されてはじめて保障される、という精神が「集団主義(コレクトビズム)」である。この集団主義の精神は、「人間に対するできるだけの要求と人間に対するできるだけの尊重」を強調したマカレンコの思想のなかから浮かび上がってきたものである。

 この集団主義教育は、第二次世界大戦後の日本にも紹介され、1950年代、1960年代の生活指導の方法論として影響力をもったことがある。学級のなかにいくつかの班をつくり、「核」とよばれるリーダーのもとで集団としての行動をしていくなかで、子供たちひとりひとりに個としての自覚を促し、集団の一員としての態度を育てていく。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」は、この生活教育運動を推進した教師たちが好んで口にした標語であった。このような実践は、社会主義社会に見合う人間像の創出をねらいとしていたというよりも、自分本位の生き方で退廃した青少年文化への対抗策として、日本の教師たちがマカレンコから学びながら編み出していったものである。[宮寺晃夫]